2012衆院選無効請求訴訟②
各メディアで大々的に報じられているように、昨日、東京高裁にて衆院選無効請求訴訟に関して「違憲」判決が出ました。これは、前回の「違憲状態」判決より更に踏み込んだ判決である点で画期的です。
ちなみに、「違憲状態」判決とは、『選挙の時点で「違憲状態」だったけど、選挙制度を改正する時間がなかったので、選挙そのものは「違憲」ではない』というもの。これに対して、「違憲」判決とは、文字通り選挙そのものが「違憲」だというものです。
さらに一般人に分かりにくいのが、今回の「事情判決」で、『選挙は「違憲」なのだけど、選挙結果を無効にすると大変な混乱が起きるから、今回の選挙結果は有効とする』というもの。
結局、選挙は「違憲」だけど「無効」ではない、というのが今回の判決です。
数年前に司法試験受験生であったときは、「事情判決」というものを必要なんだろう程度に認識していたのですが、この訴訟に関わって改めて勉強し直すと、そう単純に考えるべきものではないと思い出しました。
以前ブログにも書いたとおり、米国ではほんの僅かな格差でも選挙無効判決が出され、立法府はそれに応じて迅速に選挙区の区割りを是正し再選挙を行います。選挙が無効になることによって起きる混乱がその程度のものであれば、「事情判決」という極めて例外的な措置を執ってまで、立法府の怠慢を救済する必要があるのでしょうか?
今、国会では選挙制度の見直しが行われていますが、ようやく選挙制度の見直しを行っているというレベルで、違憲無効判決を回避する理由にはならないと考えるのが通常だと思います。(実刑かどうかという状況の被告人が、「これから反省文を書きますから」と言っても実刑を回避する理由にはならないでしょう。)
そもそも「0増5減」という案では一票の格差はほとんど是正されません。根本的な選挙制度改革を行う必要があるのに、どうせ選挙結果が無効になることはないと国会議員は考えて問題を先送りにしています。これには、無効判決を出せない最高裁の不甲斐なさにも大きな原因があると思いますが。
ちなみに、これ以上国会が違憲状態を放置するのであれば、立法不作為による国家賠償請求も検討されています。この場合、前例によれば有権者1人あたり5000円の賠償が認められます。1億人が請求すれば合計5000億円、しかしこれを税金で賄う訳にもいかないので、国が議員に対し求償することになります。そこでようやく国会議員自身の問題になりますが、そこまでやらないと理解出来ないとも思えないので、その前に早急に対応して頂きたいと思います。
今後、他の高裁や最高裁にて、「違憲無効」判決の言い渡しがあるかどうかは不明ですが、いずれにせよ、国会において急ぎ選挙制度の抜本的見直しを行い再選挙を行った上で、国民の正統な委託を受けた強い政府が、今後の国のかじ取りを行って頂きたいと思います。少なくとも、違憲な選挙の結果を受けた現在の国会議員が、憲法改正を云々議論するという異常な状況は、即刻是正してもらいたい。
一部誤解があるかもしれないので。。
いわゆる「一票の格差」訴訟は、民主党が大勝した衆院選でも行っています。どの政党が良い悪いではなく、選挙制度そのものが本件の争点であり、国民全体の問題だということを理解する必要があります。
また、地方対都市部の問題につき触れるコメンテーターがいますが、一票の格差と地域格差とは必ずしも連動していません。地方でも、例えば北海道などの一票の価値が低いように、地方で一票の価値が高く都市部で一票の価値が低いということはありません。元々、現在の選挙区割りに合理的な差別は存在しないのです。
完全な人数割りにすると地方の声が届かなくなる等との意見がありますが、民主主義国家では少数意見にも配慮しながら最終的に多数決で決定するという建前ですから、地方の意見をどのように汲み取るかという問題はありますが、そのために選挙区割りを歪めるというのは、民主主義の根本に反するものであって筋違いであろうと思います。
以上、書き連ねましたが、これは今回の原告代理人グループとも弁護士全体とも無関係の個人の雑感です。これを読んだ一人ひとりに真剣に考えてもらえると有り難いです。
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弁護士 山本純弥